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語りえないことへの呼びかけ:タイ文学に見るレイプの語り
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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語りえないことへの呼びかけ:タイ文学に見るレイプの語り (210.6 kB)
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Item type | 紀要論文(ELS) / Departmental Bulletin Paper(1) | |||||
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公開日 | 2005-01-01 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | 語りえないことへの呼びかけ:タイ文学に見るレイプの語り | |||||
タイトル | ||||||
言語 | en | |||||
タイトル | Naming the Unspeakable : Representing Rape in Thai Literature | |||||
言語 | ||||||
言語 | eng | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ識別子 | http://purl.org/coar/resource_type/c_6501 | |||||
資源タイプ | departmental bulletin paper | |||||
ID登録 | ||||||
ID登録 | 10.34577/00001842 | |||||
ID登録タイプ | JaLC | |||||
ページ属性 | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | P(論文) | |||||
著者名(日) |
Pragatwutisarn, Chutima
× Pragatwutisarn, Chutima |
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抄録(日) | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | 性的虐待が文学研究で取り上げられるようになったのは最近の現象である。しかし,性的虐待の物語の稀少さはタイ社会で性的虐待がほとんど起きていないことを意味するものではない。性的虐待の語りの最も重要なテーマの一つは,虐待の体験者たちが見せる,自らの物語を語ることへの欲望と,その物語を語り得ないことに対する無念さとの狭間の緊張である。性的虐待の問題は,それを表現する媒体としてだけでなく,虐待の意味性を構築し挑戦する役割を果たすものとしての言語の問題と切り離すことはできないのだ。重要になるのは,語りと事実の間の呼応関係ではなく,ある歴史的状況のもとに物語が生産され消費される,その文化的枠組みの中に虐待の語りを位置付け考えることだろう。文化的現象としての性的虐待の語りの登場は,体験者の声と支配的言説の間に緊張を生み出し,そこにおいて私たちは体験者の役割と支配的文化における治癒力を考察することができる。この研究では,性的暴力がタイ社会で声を奪われていた理由を,SEA 賞の受賞者であるアンチャンの最新小説であるOn the Mouth of the World(2003)におけるレイプの表象を通じて考えたい。この小説は性の問題を正面から取り上げた数少ない文学作品の一つである。前書きの中で作者は執筆意図をタイ社会に置いてタブーとされてきた性の問題に光を当てることだと明言している。この小説は,アンという名の女性の物語が男性のナレーターのジョンによって語られる。ジョンによれば,アンは上流家庭に生まれた若く美しい,性的魅力のある女性である。彼女は反伝統主義者であり,ジョンを含む数え切れないほどの男性と遊びまわり関係を持つことで性差の既成概念を超越している。物語の転換点は彼女が妊娠に気付いた時点である。自分が父親かもしれないと考えたジョンは,彼女を助けようと考え結婚して家族を持とうと彼女に申し出る。しかし,彼女はその申し出を断り,代わりに子供時代に体験し現在のセックスに対する中毒を招くこととなった,義父や祖母付の運転手,自分の教師との性体験を告白する。アンの語りを聞いたジョンは彼女から離れる決意をする。彼は自分の語りを,おそらく変質的な性的欲望によって引き起こされたであろう彼女の悲劇的な死の報告と,ニーという女性との結婚から生まれた女の子をアンと名づけたことで締めくくる。この小説はタイ社会における性的虐待の典型的な受容と理解を表現した模範的なテクストとして読み解くことができる。アンについての物語であるが,彼女の物語の書き手となり自らの視点から彼女を解釈し評価するのは,男性の語り手であるジョンである。彼の語りにおいてジョンはアンを善良な少女か悪い少女のどちらかとして捉え,彼女のセクシュアリティに対する不安と,それを従属させたいという自らの欲望をその2 項対立に反映させる。自らの物語を語ることを押し通し父権的社会からは容認されていない役割を身に着けることで,アンは困難な状況にある女性を助け出す英雄というジョンのロマン主義的概念を打ち壊し,彼の物語が直線的な語りと整った結末を達成することを妨げる。アンの死は,既存文化の語りに自らの物語をはめ込むことを拒否する女性への父権の暴力を象徴していると言えるだろう。フェミニスト批評がもたらした解釈戦略によって,アンの物語を読み直し,男性的な語りの中に埋め込まれた女性のプロットを再発見することが可能になった。知識生産の状況に注目することによって女性の物語を発掘することができるのだ。奇妙に近しさのある虐待体験の世界から響くアンの声は,変質的な性的嗜好を持つ堕落した少女というよりは,無力で怯えた性暴力の被害者の物語を語る。この小説における真の悲劇は,アンの語りを読み理解することができず,結果として彼女を救うことに失敗するジョンにある。性にまつわる物語を語ることは簡単ではなく,リスクと期待が共に伴う。明白にレイプの証言であるアンのジョンに対する告白は,彼女が自分自身を誘惑の対象ではなく誘惑者であると主張する,ねじれた結末がある。一般的には物語の虚構性の証明と見なされるこのような矛盾は,被害者が自らの体験に意味性を与えようとする苦悩を表わしているのだ。ここに見られるのは,体験を乗り越え生き残るための被害者の関与と戦略だけではなく,虐待側が無垢を主張し虐待された側が恥と罪悪感を背負うというレイプの神話を被害者自身が内在化するという,複雑な過程である。つまり,学者や専門家が沈黙の打破を抵抗の現われとして称揚するのに対し,アンの告白から浮かび上がることは,レイプの言葉と男女間関係性の支配的構造が女性の抵抗を通じて自らを語り続けているということである。 | |||||
書誌情報 |
Gender and Sexuality : Journal of the Center for Gender Studies, ICU 号 1, p. 29-50, 発行日 2006-03-31 |